Juntaro Okabe
  岡部淳太郎作品





水のための散文詩


流れにさからってのぼってゆく鮭の産卵のよ
うにうたうたうものは自らを束縛するすべて
のものに抗いうたうたう水の飛沫がとびちる
ようにうたのかけらはとびちりその濡れてふ
とった水を全身に浴びて鰓呼吸のように喉を
ふるわせうたの水の冷たさにからだはふるえ
いつか思い出となる日に向かってうたははき
だされ水の温度は沸点にまで至ることはなく
冷たいままで幸福であり水の色はとうめいで
はなくとうめいのような水色あるいは青その
色のなかに沈まなければうたをつむぐことは
できない足下は水に洗われ胃壁は水に洗われ
脳のなかの思考も感情も水に洗われ掌を水で
よく洗いましょう想像を水によってきよめま
しょう滝から落ちて川になるささやかな流れ
この川の上を小さな笹舟がうたをのせてすす
む頭上に目をうつすと星ぼしが水に洗われた
ために美しくひかりかがやいており水は流れ
るために流すためにいつもそこにあり天空を
かける水の奔流肉のなかをめぐる水の韻律水
はうたであり水はいのちでもあるのか私はあ
なたのためにうたうたう聴く人よあるいは聴
くことのない人よ私は水そしてまた私はうた




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