Juntaro Okabe
  岡部淳太郎作品





四月


病人は目を醒まし
言葉にならない声でさけんでいる
葬儀屋が切り取った脚を
箱に入れて去っていく
皮膚は黒かったが
骨は白いままだろうか
もっと遠い窓の向こうでは
咲いたばかりの花が
離れていったもののことを思うことなく
あつまってきたものたちをむかえている
いっぽうでこんな
奇妙な失い方もあるのだ
そのどちらも過去ではなく
ただの現在でしかないのだが
もうこれ以上はいい
もうこれ以上
失って何をおぼえるというのか
なにも
なにものも
あつまらない
遠い窓の向こうで
咲いたばかりの花が
微笑むように揺れるのが見える
皮膚は黒かったが
骨は白いままだろうか



二〇〇八年四月十五日、父が右脚切断の手術を受けた。
術後に、葬儀屋が切り取った脚を火葬するためにやってきた。



  TOP

inserted by FC2 system